HINREVERSE ENTROPY JOURNAL
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NMNを24週間飲むとNAD⁺は3.6倍に。本当に若返ったのでしょうか?

著者:チェ・ギョンロク 医師・医科学博士 · 2026-10-29

NMNを飲むとNAD⁺が増えます。今回の研究では、約3.6倍に増えました。ところが、その後の結果のほうが興味深いものでした。聴力も、握力も、歩行能力も改善しなかったのです。

私は、この研究がNMNそのものを超えた大切な問いを投げかけていると思います。

老化に関連する数値を変えることは、本当に老化を変えることなのでしょうか。

なぜNMNはエイジング研究で注目されたのでしょうか

NMNは、nicotinamide mononucleotide(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の略です。体内でNAD⁺をつくる代謝経路に関わる前駆体の一つです。

NAD⁺は細胞のエネルギー代謝だけでなく、DNA損傷への応答や、サーチュイン、PARPなどに関わる重要な生物学的過程にも関与します。加齢に伴い、さまざまな組織でNAD⁺が減少するという研究から、魅力的な仮説が生まれました。

もっともらしい説明です。ただ、私は最後の矢印を少し疑っています。NAD⁺が老化と関係していることと、人為的にNAD⁺を増やせば人間の老化が遅くなることは、まったく別の話だからです。

実際に、人に高用量のNMNを飲んでもらいました

2026年9月にnpj Agingに発表された研究です。65歳以上の健康な日本人62人を無作為に2群に分け、一方にはNMN、もう一方にはプラセボを投与しました。

NMNの用量は1日1,250 mg、期間は24週間でした。無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験で、最終的な有効性の解析には60人が含まれました。

主要評価項目は純音聴力でした。そのほかにも、握力、歩行速度、30秒椅子立ち上がりテスト、6分間歩行テストなど、実際の身体機能を測定しています。

NAD⁺は、確かに増えました

この点はかなり明確です。NMNを摂取した人の全血NAD⁺は、プラセボ群と比べて大きく増加しました。研究者の表現では約3.6倍の増加で、統計的にも明瞭な変化でした。

「NMNを飲めばNAD⁺を増やせるか」という問いには、かなり自信を持って「はい」と答えられます。問題は、その先です。

それで、体の機能は改善したのでしょうか

主要評価項目である聴力には、群間の差がありませんでした。握力、歩行速度、30秒椅子立ち上がりテスト、6分間歩行テストでも、有意な差は確認されませんでした。

NMN群で軟部除脂肪量が約0.8 kg増えるなど、興味深い兆候はいくつかありました。しかし、複数の項目を同時に比較したことに対する統計的な補正を行うと、有意性はなくなりました。研究者も、確定的な効果ではなく探索的な結果と位置づけています。

結局、今回の研究で最も明確に変わったのは、NAD⁺という数値でした。一方、私たちが実際に期待する機能面の結果には、明らかな改善が見られませんでした。

NAD⁺が増えたのに、なぜ効果が見られなかったのでしょうか

答えは、まだ分かりません。考えられる説明はいくつもあります。

まず、今回測ったのは全血のNAD⁺です。血液で3.6倍に増えたからといって、筋肉、脳、血管、内耳などの組織でも同じように増えたとは断定できません。

ただ、私はそれよりも根本的な問いがあると思います。NAD⁺の減少は、本当に老化の「原因」なのでしょうか。

老化した組織で、ある物質が減っているとします。少なくとも二つの可能性があります。その物質が減ることで老化が進む場合と、老化が進むためにその物質が減る場合です。実際の生物学では、両者が互いに影響することもあります。

それを区別せずに「加齢でNAD⁺が減る → NAD⁺を増やせば若返る」と考えると、途中に大きな論理の飛躍が生じます。

少し極端なたとえを挙げましょう。白髪は加齢と強く関連しています。それでも、髪を黒く染めたからといって、人が若返るわけではありません。老化とともに変わる指標と、老化を引き起こす原因は区別する必要があります。

増やせば増やすほど、よいわけでもありません

今回のNMNの用量は、1日1,250 mg。かなりの高用量です。そして、NAD⁺は実際に大きく増えました。それでも、機能の改善は確認されませんでした。

この結果だけで、高用量のNMNが悪いとはいえません。ただ、少なくとも「NAD⁺が大きく増えるほど、人にとってよいのか」という問いは立てられます。

現在のヒトのデータから、「そうだ」と答える根拠はありません。体内の代謝の仕組みの多くは、単純な直線関係では動いていません。ある物質が不足すると問題が起こるとしても、それを正常以上に増やし続ければ、さらによい結果になるとは限りません。生体は、基本的に恒常性を保つシステムだからです。

私は検査の数値より、実際の臨床的な変化を重視します

この研究に関心を持った理由は、NMNだけではありません。エイジング研究では、似た話が繰り返し登場します。

どれも興味深い結果です。ただ、もう一度問わなければなりません。それで、その人は本当に健康になったのでしょうか。

私たちが老化研究に本当に求めるのは、血液検査の数字ではありません。筋肉や認知機能が保たれること。心血管疾患やがんが減ること。生活機能の低下が遅くなること。そして最終的に、健康に過ごせる時間が延びること。そうした結果が重要です。

では、NMNには効果がないのでしょうか

そう結論づけるのも行き過ぎです。この研究は約60人規模で、期間は24週間でした。対象も比較的健康な日本人の高齢者です。もともと聴力の変化を中心に必要な人数を計算した試験で、人間の老化のあらゆる側面を評価する設計ではありません。

今回の研究からいえるのは、ここまでです。

NMNは、人でNAD⁺をかなり効果的に増やします。しかし、その増加が意味のある抗老化効果につながるというヒトのエビデンスは、まだ十分ではありません。

この研究はNMNメーカーのMIRAILAB BIOSCIENCEの支援を受け、同社の社員も著者に含まれています。だからといって、結果を無視する理由にはなりません。むしろ、企業が支援した試験でも、NAD⁺の大きな増加と実際の機能的な効果が分かれて現れた点は興味深いと思います。

数値が若返ることと、人が若返ることは違います

NAD⁺は、確かに興味深い分子です。引き続き研究する価値もあります。今後、特定の患者群や組織、異なる用量や投与期間で、意味のある効果が見つかるかもしれません。

ただ、現在のヒトのエビデンスを見る限り、私はNAD⁺の増加そのものを「老化を治療した証拠」として受け取ることには、かなり懐疑的です。

今回、NMNは自分の役割を見事に果たしました。NAD⁺を増やしたのです。実に3.6倍に。それでも、それだけでは十分ではありませんでした。

エイジング研究で特に注意したい思い違いの一つは、老化に関連する数値を変えたことを、老化そのものを変えたことだと考えてしまうことです。

これからのNMN研究で、私がより高いNAD⁺の数値よりも見たいのは、人にとって、よりよい結果です。それが確認されてこそ、NAD⁺の増加を意味のある抗老化効果と呼べるようになるのだと思います。

参考論文

Igarashi M, et al. Sustained NAD⁺ augmentation by high-dose nicotinamide mononucleotide supplementation in older adults: a 24-week randomized, double-blind, placebo-controlled trial. npj Aging. 2026. DOI: 10.1038/s41514-026-00482-7.

本記事は科学・医学研究の紹介と解釈を目的としており、個人にNMNの摂取を勧めるものではありません。

韓国語原文の公開日:2026-10-02。韓国語の原文を読む ↗