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アスピリンを毎日飲むと長生きできる?心臓病・大腸がんの予防効果から出血リスクまで考える

著者:チェ・ギョンロク 医師・医科学博士 · 2026-11-04

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「アスピリンは心臓病も大腸がんも予防すると聞きました。1日1錠飲むとよいのではないでしょうか?」

一方で、こんな話も耳にします。

「健康な人がアスピリンを飲むと、かえって出血のリスクが高まるだけだと聞きましたが?」

どちらが正しいのでしょうか。

アスピリンの予防効果と出血リスクのバランス

どちらにも根拠があります。ただし、対象とした人が異なる研究です。すでに心血管疾患のある患者さん、遺伝的に大腸がんのリスクが高い人、特別な病気のない高齢者では、アスピリンの利益と不利益は同じではありませんでした。

私はアスピリンを単に良い薬、悪い薬と分けるより、「誰が、何を予防するために飲むのか」から考える必要があると思います。

今回は、心血管疾患の予防、健康寿命、大腸がんの予防と再発予防まで、まとめて見ていきます。

1. アスピリンはどのように心血管疾患を予防するのでしょうか?

アスピリンの心血管疾患予防効果は、主に血小板が互いに集まるのを抑える働きによるものです。

血小板は、出血したときに血を止めるために必要な細胞の断片です。ただし、血管の中で血栓ができる際にも関わります。アスピリンは、この血栓形成を減らすのに役立ちます。米国心臓協会の説明

よく「血液をさらさらにする」と表現されますが、血管にたまった脂肪を洗い流したり、詰まった血管を掃除したりするという意味ではありません。

問題は、この作用に二面性があることです。

血栓はできにくくなりますが、出血も起こりやすくなります。

アスピリンは血小板の働きを抑えるだけでなく、消化管の粘膜を守る物質の産生にも影響します。そのため、血管疾患を予防する効果を見る際には、消化管出血や脳出血などのリスクも併せて考える必要があります。USPSTFの勧告

すでに心臓病を経験した人には重要な薬です

心筋梗塞や一部の虚血性脳卒中を経験した患者さんで、再び起こるのを防ぐ治療を二次予防といいます。

こうした患者さんでは、アスピリンが重大な血管イベントを減らすことを示すランダム化試験の根拠があります。冠動脈ステント留置後にも、ほかの抗血小板薬と併用する場合があります。ランダム化試験の統合解析

一方、まだ心血管疾患を経験していない人が、初めての発症を防ぐために服用することは一次予防です。

すでに病気になった人の再発を防ぐことと、健康な人が将来に備えて飲むことは、別の問題です。この違いを区別すると、これから紹介する研究結果も正しく理解できます。

2. 健康な高齢者約1万9千人が毎日服用しても、健康寿命は延びませんでした

2018年にNew England Journal of Medicineで発表されたASPREE研究です。

研究者は、心血管疾患や認知症、自立した生活を制限する障害のない高齢者19,114人を、アスピリン1日100 mgまたはプラセボに無作為に割り付けました。大半が70歳以上で、追跡期間の中央値は4.7年でした。

中心となる問いは単純でした。

アスピリンを飲むと、死亡・認知症・持続的な身体障害のない状態で生きる期間は延びるのでしょうか。

結果は、延びませんでした。

この複合評価項目のハザード比は1.01で、両群に有意な差はありませんでした。一方、重大な出血は増えました。ASPREE原文

ASPREEの重大な出血:アスピリン3.8%、プラセボ2.8%
ASPREEでは、重大な出血はアスピリン群3.8%、プラセボ群2.8%でした。中央値4.7年の追跡期間全体で観察された割合であり、年間発生率ではありません。健康寿命を評価した死亡・認知症・持続的な身体障害の複合評価項目では、利益は確認されませんでした。

出典:McNeil JJ, et al. NEJM. 2018;379:1499–1508. Table 2の重大な出血の発生割合を独自のグラフで表示。画像の出典論文。Reverse Entropy独自制作。原著論文の図版は複製していません。

追跡期間中の重大な出血 · 発生割合

アスピリン群 · 3.8%

プラセボ群 · 2.8%

時間経過を考慮した出血のハザードは相対的に38%高く、実際の発生割合の差は約1パーセントポイントでした。

健康な高齢者が長生きのためにアスピリンを飲むという方法は、この試験では期待された利益を示しませんでした。

3. それでも、大腸がんの予防効果には実際の根拠があります

では、アスピリンが大腸がんを予防するという話は間違いなのでしょうか。

そうではありません。

2010年にThe Lancetで発表された研究では、過去のアスピリンのランダム化試験の参加者について、がんの発生と死亡を長期にわたり追跡しました。

統合解析では、アスピリンに割り付けられた群は、20年間の結腸がん発生リスクが24%、結腸がんによる死亡リスクが35%低くなっていました。解析全体では、直腸がんの差は統計学的に有意ではありませんでした。長期追跡解析の原文

大腸がんは、発生する場所によって結腸がんと直腸がんに分かれます。この研究でより明確に確認されたのは、結腸がんについての効果でした。

こうした結果が積み重なり、アスピリンの大腸がん予防効果に注目が集まりました。

ただし、もともと心血管疾患の予防を目的に設計された試験の長期追跡データであり、参加者の年齢、用量、服用期間もさまざまでした。

では、大腸がんのリスクが特に高い人ではどうでしょうか。

4. 最も明確な例は、遺伝性の大腸がん高リスク状態である「リンチ症候群」です

リンチ症候群は、DNAの誤りを修復する遺伝子の異常と関連する、遺伝性のがん高リスク状態です。大腸がんをはじめ、複数のがんの発生リスクが高くなります。単に家族に大腸がんの人がいることとは区別します。

こうした患者さんを対象としたCAPP2ランダム化試験は、重要な根拠です。

リンチ症候群の患者さん861人を、アスピリン1日600 mgまたはプラセボに割り付けました。薬の投与期間とその後の観察期間を含め、平均約10年間追跡した結果が、2020年にThe Lancetで発表されました。

CAPP2の大腸がん発生:アスピリン427人中40人、プラセボ434人中58人
リンチ症候群の患者さん861人を追跡したCAPP2では、大腸がんはアスピリン群427人中40人、プラセボ群434人中58人に発生しました。棒グラフは観察された割合を四捨五入した値です。本文のハザード比0.65は、発症時点を考慮した別の解析値です。

出典:Burn J, et al. Lancet. 2020;395:1855–1863. 無作為割付群別の大腸がん発生人数をもとに独自のグラフを制作。画像の出典論文。Reverse Entropy独自制作。原著論文の図版は複製していません。

大腸がんの発生 · 患者数 · 割合

アスピリン群 · 427人中40人 · 約9.4%

プラセボ群 · 434人中58人 · 約13.4%

発症までの時間を考慮した解析のハザード比は0.65でした。アスピリン群では、大腸がん発生のハザードが相対的に約35%低かったという意味です。CAPP2原文

特定の高リスク集団では、アスピリンの大腸がん予防効果がランダム化試験で確認されたのです。

実際に、英国NICEのガイドラインも、リンチ症候群の患者さんについて、大腸がんのリスクを減らすために2年を超える期間のアスピリン服用を検討するよう勧めています。NICEガイドライン

より少ない量でも効果を得られるのでしょうか?

予防効果を得ながら出血を減らせれば、さらに望ましいはずです。そこで、用量を比較する後続研究が行われました。

2026年に発表されたCaPP3試験では、100 mg、300 mg、600 mgを比較しました。100 mg群は600 mg群と似たがん発生の傾向を示し、出血は少なく、低用量を活用できる可能性を補強しました。

ただし、事前に定めたすべての統計学的基準を満たし、「低用量は劣らない」と確定した結果ではありませんでした。用量は、最新の根拠と個人の出血リスクを併せて考えて決める必要があります。

5. 大腸がん手術後の再発を減らす効果も確認されました

そこから、さらに一歩進んだ研究もあります。

がんができる前に予防することに加え、すでに大腸がんの治療を受けた人の再発を減らせるかを調べたものです。

2025年にNew England Journal of Medicineで発表されたALASCCA研究は、特定の遺伝子変異がある大腸がん患者さんを対象としました。

手術を受けた626人に、アスピリン1日160 mgまたはプラセボを3年間投与しました。患者さんの腫瘍には、がんの増殖シグナルに関わるPI3K経路の遺伝子変異がありました。

先ほどのリンチ症候群が、生まれ持った遺伝性のがんリスクに関する話だったのに対し、ここでは腫瘍で見つかった遺伝子変異を基準に患者さんを選んでいます。

主要解析の対象となった、特定のPIK3CA変異を持つ314人の結果は次のとおりです。

ALASCCAの3年再発率:アスピリン7.7%、プラセボ14.1%
ALASCCAの主要解析群である、PIK3CAエクソン9・20の特定の変異を持つ314人では、3年累積再発率は7.7%と14.1%でした。棒グラフは、再発までの時間を考慮した解析による推定値です。前のCAPP2とは、対象、評価項目、追跡期間が異なります。

出典:Martling A, et al. NEJM. 2025. doi:10.1056/NEJMoa2504650. Group Aの3年累積再発率を独自のグラフで表示。画像の出典論文。Reverse Entropy独自制作。原著論文の図版は複製していません。

3年累積大腸がん再発率 · 結果

アスピリン群 · 7.7%

プラセボ群 · 14.1%

再発のハザード比は0.49でした。時間経過を考慮した再発のハザードは相対的に約51%低く、3年再発率の絶対差は6.4パーセントポイントでした。

試験全体では、重度の有害事象はアスピリン群16.8%、プラセボ群11.6%でした。すべてが薬によって起きたという意味ではありませんが、治療を選ぶ際に併せて見るべき結果です。ALASCCA論文

どの患者さんに使うかが重要です

同じ年に発表されたASCOLT試験は、このような遺伝子変異で患者さんを選んでいませんでした。

標準治療を終えた大腸がん患者さん1,550人を解析し、アスピリン200 mgを3年間投与しました。5年無病生存率はアスピリン群77.0%、プラセボ群74.8%で、統計学的に有意な差はありませんでした。ASCOLT論文

この2試験は対象、治療の時期、評価項目が異なるため、直接一対一で比べるのは困難です。それでも、すべての大腸がん患者さんにアスピリンを同じように使うのではなく、どのような腫瘍を持つ人に役立つのかを見分けることが重要になっていると分かります。

私はここを興味深く感じます。古くからある薬も、効果を期待できる患者さんをより正確に見つければ、新しい役割を持てるからです。

これらの研究で、アスピリンは手術や必要な抗がん治療に追加する補助的な方法として評価されました。

6. では、健康な人も大腸がん予防のために飲むべきでしょうか?

ここで最初の問いに戻ります。

「特定の患者さんに効果があるなら、私も前もって飲むとよいのではないでしょうか?」

これに答えるには、健康な人にも同じ利益があるかを見る必要があります。

2026年のJAMA Oncologyには、先ほど紹介したASPREEの参加者をさらに長く観察した結果が発表されました。

試験終了後の観察期間も含めた追跡期間の中央値は8.6年でした。高齢期にアスピリンに割り付けられた群で、がん全体の発生減少も、大腸がんの発生減少も確認されませんでした。

勧告を出す機関によっても判断は異なります。

米国消化器病学会は2021年の勧告で、一定の心血管リスクがあり、出血リスクが低い一部の成人に対し、大腸がん予防に低用量アスピリンを活用することを提案しました。一方、米国予防医療サービス専門作業部会は2022年の改訂で、一般的な一次予防の対象者について、大腸がんの発生・死亡を減らす根拠は十分ではないと判断しました。AGAの勧告 · USPSTFの勧告

私はこの違いを見るとき、「その利益が出血リスクを上回るのは誰か」に注目します。

がんのリスクが高い人には意味のある予防効果があっても、リスクが低い人には得られる利益が小さいかもしれません。その間に引き受ける出血リスクも併せて考える必要があります。

7. 誰には必要で、誰は慎重になるべきでしょうか?

状況を分けると、判断はずっと明確になります。

心筋梗塞・脳卒中の既往、冠動脈ステントなど

再発や血栓を防ぐための重要な治療となることがあります。ほかの薬との組み合わせや服用期間も含め、担当医が判断します。

心血管疾患のない中年の成人

心血管リスクと出血リスクを比較し、選択的に使用できる場合があります。

健康な高齢者

単なる長寿・アンチエイジング目的で新たに始める利益は確認されておらず、特に出血リスクを考える必要があります。

私はお勧めしません。

リンチ症候群

大腸がん予防を目的として、積極的にお勧めします。

大腸がん治療後に特定の遺伝子変異が確認された患者さん

再発を防ぐ補助的な方法として、腫瘍内科・外科の医療チームと検討できます。

例えば、米国予防医療サービス専門作業部会は、40~59歳で10年間の心血管リスクが10%以上の成人について、開始するかどうかを個別に判断するよう勧めています。

60歳以上で、初めての心血管イベントを防ぐ目的で新たに始めることは勧めていません。すでに心血管疾患の治療を受けている人に、薬をやめるよう勧めているわけではありません。USPSTF 2022年勧告

8. 服用するなら知っておきたいこと

低用量や腸溶錠でも、出血リスクがなくなるわけではありません

胃ですぐに溶けず、腸で溶けるように作られた腸溶錠なら安全だと考えがちです。

しかし、2023年に発表されたADAPTABLE試験の二次解析では、腸溶錠によって通常の非腸溶製剤より出血リスクが有意に低くなることは確認されませんでした。剤形そのものを無作為に割り付けた比較ではありませんが、腸溶錠だからというだけで出血への心配が減るわけではありません。ADAPTABLEの剤形解析

アスピリンは大腸内視鏡検査の代わりにはなりません

予防薬を飲むことと、検診を受けることは別の話です。

特に韓国では、大腸内視鏡検査の費用が比較的安く、医師の技術も高いため、積極的に活用することでがんの早期発見が可能です。

そのため、アスピリンを服用していても、年齢、家族歴、過去のポリープの結果などに合った検診は続ける必要があります。ACG大腸がん検診ガイドライン

すでに処方されて服用しているなら、記事だけを見てやめないでください

現在服用している場合は、まずなぜ処方されたかを確認する必要があります。特に心筋梗塞やステント留置などで処方されたアスピリンは、担当の医療チームに相談せず中止・変更してはいけません。米国心臓協会の案内

おわりに:自分にどのような利益があるかを問う必要があります

私はアスピリンを評価するとき、2つのことを同時に認める必要があると思います。

第一に、大腸がん予防効果には実際の根拠があります。特にリンチ症候群では発症の予防効果が、特定の遺伝子変異を持つ大腸がん患者さんでは再発を減らす効果が、ランダム化試験で確認されました。

第二に、その結果は、健康な人全員が毎日服用すべきだという意味ではありません。健康な高齢者を対象とした大規模試験では、健康寿命への利益がない一方で、出血が増えました。

アンチエイジングの観点でも、私は薬の可能性を十分に検討する価値があると思います。その可能性を実際の利益につなげるには、どのような人に使うのかも併せて考える必要があります。

大切な問いは、これです。

「自分にとって予防できるリスクは十分に大きく、引き受けるリスクは十分に小さいだろうか?」

必要な人にとって、アスピリンは重要な薬です。ただ、長生きしたいという理由だけで、誰もが追加すべき薬ではありません。

服用を始めるか、続けるかを判断するときは、薬の評判より先に、自分の病気と予防の目的を確認してほしいと思います。それがアスピリンを適切に使う出発点だと考えています。

参考資料

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2. American Heart Association. Aspirin and Dual Antiplatelet Therapy. 公式案内

3. McNeil JJ, et al. Effect of Aspirin on Disability-free Survival in the Healthy Elderly. N Engl J Med. 2018. DOI: 10.1056/NEJMoa1800722. 原文

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6. NICE. Colorectal cancer, NG151. Recommendation 1.1.1: Prevention of colorectal cancer in people with Lynch syndrome. ガイドライン

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9. Aspirin after completion of standard adjuvant therapy for colorectal cancer (ASCOLT): an international, multicentre, phase 3, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025. 論文

10. Orchard SG, et al. Cancer Incidence and Mortality With Aspirin in Older Adults: Follow-Up of the ASPREE Trial. JAMA Oncol. 2026. DOI: 10.1001/jamaoncol.2025.6196. 論文

11. American Gastroenterological Association. Chemoprevention for colorectal neoplasia. 2021. 勧告

12. USPSTF. Aspirin Use to Prevent Cardiovascular Disease: Preventive Medication. 2022. 勧告

13. Sleem A, et al. Effectiveness and Safety of Enteric-Coated vs Uncoated Aspirin in Patients With Cardiovascular Disease: A Secondary Analysis of the ADAPTABLE Randomized Clinical Trial. JAMA Cardiol. 2023. 論文

14. Shaukat A, et al. ACG Clinical Guidelines: Colorectal Cancer Screening 2021. Am J Gastroenterol. 2021. ガイドライン

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韓国語原文の公開日:2026-11-02。韓国語の原文を読む ↗