HINREVERSE ENTROPY JOURNAL
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200年生きるホッキョククジラ、DNAを直す能力が違いました:CIRBPタンパク質の抗がん能力

著者:チェ・ギョンロク 医師・医科学博士 · 2026-11-05

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200年以上生きることができる哺乳類がいます。ホッキョククジラです。

あれほど大きな体で長い年月を生きるなら、細胞に生じる故障も膨大なものになりそうです。

ところが、2025年のNatureに掲載された研究で、興味深い手がかりが見つかりました。

ホッキョククジラの細胞は、傷ついたDNAを効率よく、しかも正確に修復していました。

長生きの秘訣は、故障を起こさないことだけにあるのではないかもしれません。故障したときに、どれだけうまく直せるかも大切だということです。

ホッキョククジラのAI生成イラスト。「200年を生き抜く体」。実際の写真や研究個体ではありません。

ホッキョククジラを表現したAI生成イラストです。実際に撮影した写真や、研究に使われた個体ではありません。ホッキョククジラは200年以上生きられると推定されていますが、すべての個体がその年齢に達するという意味ではありません。

出典:Reverse Entropy独自制作。種の情報:NOAA Fisheries。研究:Firsanov D et al., Nature, 2025。

では、クジラの細胞はもともとがんに強いのでしょうか?

研究チームは、ホッキョククジラの細胞ががん化する過程を調べました。

クジラの細胞(皮膚線維芽細胞)とヒトの細胞に、遺伝子の故障、つまり変異を人為的に起こし、がん細胞へと変化させる実験です。

クジラの細胞はがんに強いのだから、ヒトの細胞よりはるかに多くの遺伝子を壊さなければ、がん細胞にはならないだろう。

そう予想していたのですが、

実際には、クジラの細胞はヒトの細胞より少ない遺伝子操作で、容易にがん細胞へと変わりました。たとえば、ヒトでは5段階の防御壁を崩す必要があるのに、クジラでは3段階を崩すだけでがんになる、といったイメージです。

実験室で遺伝子を直接操作すると、クジラの細胞は予想よりも容易にがん細胞になったのです。そのため、「ホッキョククジラの細胞自体が、生まれつきがん化しにくい鉄壁の細胞だ」と単純に結論づけることはできなくなりました。

その代わり、クジラの細胞はDNAの損傷を修復する能力に優れ、変異も少なく見られました。

破れた設計図を元どおりにつなぎ直す能力が鍵です

DNAには、細胞が働くために必要な情報が入っています。2本の鎖が同時に切れる損傷は、とりわけ厄介な問題です。

破れた設計図をつなぎ直しても、文字が抜けたり順序が入れ替わったりすれば、元の設計図とは違うものになります。

ホッキョククジラの細胞は、こうした損傷を修復する効率だけでなく、元の情報を保つ正確さにも強みを示しました。

研究チームは、その過程でCIRBPというタンパク質が重要な役割を果たすことを見いだしました。

なお、CIRBPはCold-Inducible RNA-Binding Protein、低温誘導性RNA結合タンパク質の略です。

CIRBPはどのような役割を果たすのでしょうか?

DNAが切れた瞬間、

CIRBPが損傷部位にすぐ駆けつけ、結合します。

修復タンパク質が切断部位に集まるのを助け、切れたDNAの末端を保護することで、より効率的で正確な修復を支えます。

ほかの哺乳類と比較して、ホッキョククジラの線維芽細胞や組織ではCIRBPが特に豊富に認められました。

通常、ゾウやヒトなどの動物は、細胞のDNAがひどく傷つくと、その細胞を自死させます。

特にゾウは、がん抑制遺伝子TP53のコピー数がヒトの20倍もあり、疑わしい細胞を容赦なく取り除きます。

細胞を死なせる防御層を増やす代わりに、ホッキョククジラは大量のCIRBPを活用し、傷ついたDNAをより効率的かつ正確に修復して、細胞を捨てずに使い続ける戦略をとっているのです。

先ほどの「クジラの細胞を人為的に操作すると、ヒトより容易にがん細胞になった」という結果の理由は、ここにあります。

CIRBPがDNA修復を高めて変異の蓄積を抑えるのを助けることで、変異が起きてから働く「細胞の自殺」、つまり廃棄の防御を何層も重ねる必要性が小さくなるのかもしれません。

ヒトの培養細胞でも作用を確認しました

研究チームは、ヒトの培養細胞にホッキョククジラのCIRBPを作らせました。

その結果、DNAの主要な2つの修復経路が改善しました。切れたDNAの末端を保護し、つなぎ直すのを助ける作用も確認されました。

ショウジョウバエでも実験を行いました。ヒトまたはホッキョククジラのCIRBPを多く作らせると、生存期間が延び、放射線による損傷を受けた後の生存も改善しました。

研究原文:Firsanov et al., Nature, 2025

傷ついた細胞を取り除くだけが答えではありません

私はこの研究を読み、以前紹介した老化細胞を除去する研究を思い出しました。

危険になった細胞は取り除く必要があります。しかし、修復できる細胞まで取り除き続けるだけで、体を長く保てるのでしょうか。

都市を思い浮かべると分かりやすいでしょう。倒壊しそうな建物は解体しなければなりませんが、小さなひびが入った建物まで、すべて取り壊す必要はありません。きちんと修理して長く使う能力も必要です。

ホッキョククジラが傷ついた細胞をまったく除去しない、という意味ではありません。今回の研究で特に明らかになった強みが、DNAを正確に直す能力だったということです。

長寿の動物から学びたいこと

この研究を読んで、今すぐ使える抗老化成分が見つかったと言うことは難しいでしょう。

ヒトの体内でCIRBPを増やした場合の効果と安全性は、まだ確認されていません。

それでも私は個人的に、このタンパク質に大きな期待を寄せています。

CIRBPは、その名のとおり「低温で誘導されるタンパク質」です。

氷のように冷たい北極海で一生を過ごす環境に適応する進化が、このタンパク質を最大限に高めた可能性が高く、

また、寒冷刺激や特定の薬剤刺激によってヒトの体内でCIRBPの発現を高められるかどうかが、今後の抗老化研究の可能性として検討されています。

今後、何を研究すべきかは明らかです。

どれだけ損傷を減らせたかだけでなく、すでに生じた損傷をどれだけ正確に直せたかも見ていく必要があります。

私は、正常な組織を守り、修復できる細胞は修復し、危険な細胞は取り除く能力が、そろって必要だと考えています。

壊れない体よりも、壊れても機能を取り戻せる体。ホッキョククジラは、その修復能力を研究する手がかりを示してくれました。

参考資料

1. Firsanov D, et al. Evidence for improved DNA repair in the long-lived bowhead whale. Nature. 2025;648:717–725. 原文

2. 上記論文の著者訂正。タイトルとデータへのアクセス情報に関する訂正であり、本文で紹介した結果の変更ではありません。訂正文

3. NOAA Fisheries. ホッキョククジラの寿命と生態。資料

#ホッキョククジラ #長寿研究 #DNA修復 #CIRBP #抗老化 #細胞老化 #寿命延長研究 #ReverseEntropy

韓国語原文の公開日:2026-10-17。韓国語の原文を読む ↗