肌のきめは整ったのに、頬や口元のたるんだ印象は残っている。リフトアップの施術で輪郭はすっきりしたものの、頬がこけて、かえって疲れて見えることもあります。

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
私は顔の老化を見るとき、皮膚だけを見ていてはいけないと考えています。顔の印象は、皮膚の弾力、脂肪の分布、骨や靱帯による支えが一緒につくり出しているからです。
今回は、皮膚生物学で注目されている真皮白色脂肪組織、dWATについてお話しします。皮膚の近くにある脂肪は、ボリュームを保つとともに、周囲の細胞と信号をやり取りし、皮膚の維持や回復を支える環境にも関わっています。
この視点から考えると、顔の若々しさを取り戻すには、「どれだけ引き上げるか」とともに、「何を守り、何を回復させるか」も考える必要があります。
皮膚の近くにある脂肪は、コラーゲンをつくる細胞と対話しています
真皮には、コラーゲンをはじめとする細胞外マトリックスをつくる線維芽細胞があります。皮膚を支える網目をつくり、手入れする細胞だと考えてください。
この細胞は、単独で働いているわけではありません。免疫細胞や血管、周囲の脂肪細胞からの信号を受け取り、自分の活動を調節しています。脂肪細胞が送り出すものには、アディポネクチンなどの情報伝達物質も、脂肪酸をはじめとする代謝物もあります。
脂肪細胞の状態が変われば、その隣で働く線維芽細胞の環境も変わる可能性があります。
2021年に発表された脂肪細胞と線維芽細胞の代謝に関する研究は、脂肪細胞の変化が線維芽細胞の細胞外マトリックス産生に影響しうることを示しました。脂肪組織は、皮膚の再生能力と深く関係しているということです。
私は、これらの研究が皮膚治療の目標を広げてくれると感じています。コラーゲンをつくる細胞を刺激すると同時に、その細胞が働き続けられる周囲の環境にも目を向けるということです。
年齢とともに、脂肪の量も働きも変わります
加齢によって、顔の脂肪がすべての場所で同じように減るわけではありません。くぼむ部位もあれば、相対的に目立ってくる部位もあり、組織を支える構造も変わります。
細胞のレベルでも変化が起こります。脂肪細胞が正常に分化し、代謝する能力、周囲の炎症、組織の線維化は、互いに影響し合います。加齢や紫外線、ホルモンの変化が、この過程に関わる可能性があります。
アディポネクチンは、特に興味深い信号です。脂肪組織の代謝や炎症調節に関わり、皮膚では線維芽細胞や細胞外マトリックスの維持との関係が研究されています。健康な脂肪組織を守ることは、皮膚が再生する環境を守ることにもつながるかもしれません。
私は、こうした脂肪組織の研究を注意深く追っています。人の顔でどの変化がどれほど重要なのかは、今後さらに明らかにする必要があります。それでも、皮膚の下の脂肪をむやみに減らしてはいけない理由を、生物学の面から説明してくれる研究だと考えています。
頬がこけた顔では、「もっと強いリフトアップ」の前に見るべきことがあります
顔がたるんで見えるからといって、いつも皮膚をもっと強く収縮させるべきとは限りません。
頬の前方のボリュームが減ってできた影、こめかみのくぼみ、皮膚自体のたるみ。いずれも疲れた印象につながりますが、必要な対応はそれぞれ異なります。
すでにボリュームが不足している顔で、さらに脂肪が損傷すると、皮膚が引き締まっても立体感は悪くなることがあります。エネルギーを使う施術の前に、私が脂肪の分布と厚さを重視する理由です。
超音波も高周波も、どの深さに、どの程度のエネルギーを届けるかが大切です。同じ機器でも、狙う組織や設定によって結果は変わります。減らすべき組織と残すべき組織を見分けることが、施術設計の出発点です。
私は、必要な脂肪を守りながら真皮の再生を促すことに重きを置いています。dWATの研究は、こうした臨床判断の背景を、より深く理解する助けになります。
施術を考えるとき、何を大切にしているのでしょうか
一つ目は、深い部分の支えと立体感です。加齢で骨や深部脂肪の形が変わると、その上にある組織の輪郭も変わります。必要に応じて、ヒアルロン酸フィラーで不足したボリュームや支えを補う方法を考えます。まずくぼんだ部位を評価し、深さと量を決めることが大切です。骨膜の上への注入は、上にある組織を支え、たるみに対応するための選択肢になります。
二つ目は、真皮の再生を促す刺激です。高周波を使う際は、単に出力を上げるのではなく、皮膚の厚さ、治療部位、守るべき脂肪を一緒に考えます。必要な場所に熱を届けてコラーゲンの再構築を促し、組織が回復できる範囲で刺激を設計します。私は主に、深さを細かく設定できるマイクロニードルRFを用いています。
三つ目は、刺激を受けた組織が回復する環境です。リジュランに代表されるPN(ポリヌクレオチド)や、韓国で「サーモン注射」と呼ばれるPDRN(ポリデオキシリボヌクレオチド)系の治療を考えるのも、同じ理由です。両者は分子の特徴や研究の根拠が異なりますが、組織の修復や肌状態の改善という点で、それぞれ研究されています。私はエネルギー施術で再生を促した後、回復を支える過程でこうした製品を積極的に活用しています。
ここで私が期待しているのは、真皮とその下の組織が一緒に働きやすくなることです。この組み合わせがdWATの信号環境までどれほど改善できるのかは、今後確かめたい点です。これまで知られている解剖学的な支えと皮膚再生の原理に、脂肪組織の生物学を加えて治療を考えています。
深い部分の支え
不足したボリュームと立体感を評価。
必要に応じて構造的な支えを補います。
真皮の再生
肌状態に合わせたエネルギー刺激。
回復できる範囲で設計します。
脂肪と回復環境
必要な脂肪を守ります。
刺激後の組織修復も一緒に考えます。
皮膚を引き締めた、その先の顔まで考えます
皮膚がぴんと張ったことと、顔が若々しく見えることは、必ずしも同じではありません。自然なボリューム、やわらかな曲線、肌の質、表情が調和する必要があるからです。
そのため私は、皮膚だけを見て治療を終えるのではなく、表面の状態、真皮の弾力、脂肪の分布と機能、深い支持構造をつなげて見ようとしています。
それぞれの層の役割を理解することが大切です。
dWATをはじめ、皮膚の周囲にある組織の研究が進めば、どの脂肪を守り、どのような再生環境を支えるべきか、さらに具体的に分かってくるでしょう。
私は、顔を若々しくする治療が「もっと強く引き上げる技術」だけでなく、もともとのよい構造と回復能力を長く守る方向へ発展してほしいと願っています。

参考資料
- Zhang et al. Dermal adipocytes contribute to the metabolic regulation of dermal fibroblasts. Experimental Dermatology. 2021. 論文。
- Menopause and Dermal White Adipose Tissue Depletion: Mechanistic Links, Adipogenesis, and Regenerative Therapeutic Replacement. Journal of Cosmetic Dermatology. 2026. 論文。
- Widgerow AD. Adipose Tissue, Regeneration, and Skin Health: The Next Regenerative Frontier. Aesthetic Surgery Journal Open Forum. 2024. 論文。
- Rho et al. Expert Perspectives: Evidence-Based Applications of Polynucleotides (PNs) in Aesthetic Medicine and Dermatology. 2026. 論文。