レタトルチドは、イーライリリーが開発中の肥満症治療薬の候補です。
食欲、血糖、エネルギーの利用に関わる3種類のホルモン受容体、GIP、GLP-1、グルカゴンに同時に作用するトリプルアゴニストです。
このレタトルチドについて、2026年10月21日に国際医学誌NEJMで発表された研究が、とても興味深い結果を示しました。
レタトルチドを投与された患者さんは体重が減少し、睡眠検査で確認された無呼吸・低呼吸の回数も大きく減りました。1
私は今回の研究で、体重の減少率と同じくらい、この点が重要だと考えています。
肥満症治療薬に期待できることが、広がりつつあるからです。
韓国語の原記事では、説明図にAI利用の表示が付されています。元の表示について
1. 舌にも脂肪はつきます
閉塞性睡眠時無呼吸症は、眠っている間に喉の奥の空気の通り道が繰り返し狭くなったり、塞がったりする病気です。
呼吸が不安定になり、血液中の酸素が低下したり、睡眠が途切れたりすることがあります。
気道の狭くなりやすさは、舌とその周りの軟部組織、顎の構造など、さまざまな条件に左右されます。
肥満も重要な要因です。首の周りに脂肪が増えると、空気が通る空間を確保しにくくなるためです。2
ここで、意外と知られていない事実があります。舌にも脂肪が蓄積することがあります。
2020年に発表された人を対象とする研究では、睡眠時無呼吸症の患者さんの減量前後をMRIで比較しました。
その結果、舌の脂肪の減少が、睡眠時無呼吸症の改善を説明する重要な要因であることが示されました。3
体重が減ることによる変化は、喉の奥でも起こりうるということです。
そうすれば、睡眠中に気道が狭くなる負担も減る可能性があります。
2. 睡眠1時間あたりの呼吸障害は、どれくらい減ったのでしょうか?
今回の研究では、糖尿病のない患者さん243人と、2型糖尿病の患者さん448人を、それぞれ評価しました。
参加者はBMIが27以上で、中等症または重症の閉塞性睡眠時無呼吸症があり、レタトルチドまたはプラセボを80週間投与されました。
研究チームが調べた主な指標は、無呼吸・低呼吸指数(AHI)です。
睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりすることが、1時間に平均何回起こるかを示します。
糖尿病のない方では、9 mg群で1時間あたり34.3回、12 mg群で31.7回減少しました。
プラセボ群の減少は9.9回でした。
2型糖尿病の患者さんを対象とした試験でも、9 mg群で24.7回、12 mg群で25.4回減少しました。
プラセボ群は10.3回減少しました。1
3. ウゴービ・マンジャロに、何が加わったのでしょうか?
レタトルチドは、1つの分子が3種類のホルモン受容体に作用するように設計されています。4
ウゴービの有効成分であるセマグルチドは、GLP-1受容体に作用します。
マンジャロ・ゼップバウンドの有効成分であるチルゼパチドは、GLP-1とGIPの2つの受容体に作用します。
レタトルチドは、これらにグルカゴン受容体への作用を加えています。
出典:各成分の薬理作用とイーライリリーの開発資料をもとに、Reverse Entropyが制作。画像の出典 Reverse Entropy独自制作。
GLP-1は食欲や食事量を減らすことに関わります。グルカゴンは血糖値を上げるホルモンとしてよく知られていますが、エネルギーを使う過程にも関わります。
食事量の減少とともに、グルカゴン受容体を介したエネルギー消費の増加を目指しているのです。5
では、グルカゴンの作用で血糖値が上がることはないのでしょうか?
幸い、実際に2型糖尿病の方を対象としたTRIUMPH-2試験では、体重と血糖値がともに低下しました。
4. 体重は平均25%減少しました
体重を減らす効果も大きなものでした。
先ほど紹介した、糖尿病のない睡眠時無呼吸症の患者さんを含む、より大規模なTRIUMPH-1試験全体には2,339人が参加しました。この試験全体で、80週後の平均体重減少率は12 mg群で25.0%、プラセボ群で3.9%でした。7
肥満はさまざまな健康上の問題につながっています。体重が増えることで気道が狭くなりやすくなり、血糖の調整が難しくなったり、動くときの体への負担が増えたりします。
そのため私は、肥満症の治療が、こうした問題に共通する土台を改善するアプローチになりうる点に期待しています。体重を減らす治療が、呼吸や代謝、活動能力の改善にどこまでつながるのかを見ていくのです。
今回の研究は、そのうち睡眠中の呼吸障害の改善を、具体的な数値で示しました。
5. 減量の効果を長く保つには、筋肉と栄養も一緒に見る必要があります
より多くの体重を減らせるようになるほど、減量中にどのような体をつくっていくのかも重要になります。
私は抗老化の観点から、脂肪が減ることに加えて、筋力、活動能力、栄養状態を見る必要があると考えています。
日常生活でしっかり動き、必要なことをこなせる体を保つことが目標だからです。
筋力トレーニング、有酸素運動、適切な食事は、減量の効果を身体機能につなげるために、いずれも必要な要素です。
特に食欲が低下している間は、必要なたんぱく質や栄養を十分に摂れているかも確認しなければなりません。11
治療をどれだけ無理なく続けられるかも見る必要があります。レタトルチドでは、吐き気、下痢、嘔吐、便秘などの消化器症状と、異常感覚が報告されました。TRIUMPH-1試験全体で、有害事象のために治療を中止した割合は、12 mg群で11.3%、プラセボ群で4.9%でした。8
今後、実際の治療に使われるようになれば、体重の変化、身体機能、薬剤の忍容性を併せて確認し、一人ひとりに合った治療を組み立てることが重要になるでしょう。
私は、減量の先にある変化を期待しています
肥満症治療薬の進歩を見ていると、これから治療の目標は、より具体的に、そして広くなっていくと思います。
体重が減ったあと、呼吸は楽になったか、血糖はうまく調整されているか、動きやすくなったか、筋力や日常生活の機能は保たれているかを、一緒に見ていくということです。
こうした変化が、長期的な心血管の健康や、健康に生きられる期間にどれほど役立つかも、今後確認したい点です。
今回のレタトルチドの研究は、睡眠時無呼吸症という具体的な病気を通じて、その期待をもう一歩確かめさせてくれました。
体重を減らすことが、体の機能を取り戻す過程につながりうること。
私は、それが今回の研究結果の最も大きな意味だと考えています。
参考資料
1. Grunstein RR, et al. Retatrutide Once Weekly for Treatment of Obstructive Sleep Apnea. NEJM. 2026年10月21日。DOI: 10.1056/NEJMoa2611477。論文抄録・原文
2. NHLBI. Sleep Apnea: Causes and Risk Factors. 資料
3. Wang SH, et al. Effect of Weight Loss on Upper Airway Anatomy and the Apnea–Hypopnea Index. The Importance of Tongue Fat. AJRCCM. 2020. DOI: 10.1164/rccm.201903-0692OC。論文
4. Eli Lilly. What to Know About Retatrutide. 2026年10月27日確認。開発状況
5. Coskun T, et al. LY3437943, a novel triple glucagon, GIP, and GLP-1 receptor agonist for glycemic control and weight loss: From discovery to clinical proof of concept. Cell Metabolism. 2022. DOI: 10.1016/j.cmet.2022.07.013。論文
6. Eli Lilly. TRIUMPH-2・TRIUMPH-3の結果と米国での承認申請計画。2026年7月23日。公式発表
7. Jastreboff AM, et al. Retatrutide, a Triple Hormone Receptor Agonist, for Treatment of Obesity. NEJM. 2026年9月29日。DOI: 10.1056/NEJMoa2604169。論文抄録・原文
8. Eli Lilly. TRIUMPH-1の体重減少結果・解析方法・安全性。2026年5月21日。公式発表
9. FDA. FDA Approves First Medication for Obstructive Sleep Apnea. 2024年12月20日。承認発表
10. Caples SM, et al. Use of polysomnography and home sleep apnea tests for the longitudinal management of obstructive sleep apnea in adults: an American Academy of Sleep Medicine clinical guidance statement. J Clin Sleep Med. 2021。指針
11. GLP-1治療中の栄養と身体機能の管理に関する4学会の共同勧告。2025。論文
研究支援:レタトルチドの臨床試験はイーライリリーの支援を受け、開発企業に所属する研究者が参加しました。