帯状疱疹は、体内に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再び活性化することで起こります。
強い痛みと水疱が特徴で、免疫力が低下した中高年の方や、強いストレスのある状況で起こりやすい病気です。
ところが、帯状疱疹ワクチンが認知症のリスクも下げる可能性を示した研究が発表されました。
研究チームが利用したのは、珍しいことに、誕生日によって変わる接種資格でした。
誕生日が1日違うだけで、接種の機会がなくなりました。
2013年、英国ウェールズでは、生年月日によって帯状疱疹生ワクチンの無料接種資格が決まっていました。使われたのはゾスタバックスです。
重要な基準日は1933年9月2日でした。この日のすぐ前後に生まれた人は年齢がほぼ同じでも、接種資格が異なりました。
2013年9月1日の時点で、
1933年9月1日生まれ:満80歳 → 対象外
1933年9月2日生まれ:満79歳 → 接種の機会あり
1日違うだけで、一方は機会を得て、もう一方はその後もこの無料接種の機会を得られなかったのです。
資格を得た人が全員接種したわけではなく、実際の接種率は約47%でした。
資格のない人は、ほとんど接種していませんでした。
当時80歳以上を対象外としたのは、生ワクチンのゾスタバックスは高齢になると予防効果がかなり低下するためでした。
(なお、現在よく使われる組換えワクチンのシングリックスは、高齢者でも高い効果を示します。)
基準日の前後約1週間に生まれた人たちでは、接種率が0.01%と47.2%に大きく分かれました。
接種資格の基準日である1933年9月2日の両側、約1週間の範囲で観察された接種率です。解析対象全体の282,541人の接種率を比較した図ではありません。
出典:Eyting M et al., Nature, 2025。Reverse Entropyがグラフを再作成。
通常、このような研究で接種者と未接種者を比較すると、問題が生じます。もともと健康管理に気を配り、病院にもよく通う人ほど、ワクチンを受けやすいからです。
しかし今回は、誕生日という基準によって接種機会が異なりました。研究チームはこれを利用し、ワクチンそのものの影響をより詳しく調べました。このような方法を「自然実験」と呼びます。
政府による住民向けの接種事業だったため、かなり大規模な研究が可能になりました。
なんと、
28万人の認知症診断を7年間追跡しました
2025年のNatureに掲載されたこの研究では、28万人以上の診療記録を解析しました。
主な結果は、接種資格の境界付近にいた、当時およそ80歳の人たちの違いを利用して推定されました。
生ワクチン接種により、7年間で新たに認知症と診断される確率が3.5パーセントポイント低下したと推定されました。相対的な減少で表すと約20%です。
自然実験で推定した生ワクチン接種の効果は、7年間の新たな認知症診断確率で−3.5パーセントポイントでした。線は95%信頼区間(−7.1〜−0.6)を示します。接種資格の境界付近にいた約80歳の集団の推定値であり、すべての年齢やワクチンに適用できる数値ではありません。
出典:Eyting M et al., Nature, 2025。Reverse Entropyがグラフを再作成。
ほかの要因の影響を抑えた設計である点で、注目すべき結果です。
研究原文:Eyting et al., Nature, 2025
シングリックスにも同じ効果があるのでしょうか?
ウェールズの研究で使われたのは、ゾスタバックスという生ワクチンです。ただ、最近はシングリックスの接種がはるかに多くなっています。
この研究の「20%」を、組換えワクチンのシングリックスにそのまま当てはめることはできません。
しかし、シングリックスのような組換えワクチンでも結果が出てきました。
2026年の研究では、2回接種した65,800人と未接種の263,200人を比較し、接種した人で認知症の診断が少なくなっていました。
健康管理に気を配る人ほど接種しやすい傾向を考慮するため、別のワクチンであるTdapの接種者と比較した場合も、認知症の診断リスクは低くなっていました。
別のワクチン、別の集団でも、同じ方向の結果が得られたのです。
関連研究:Rayens et al., Nature Communications, 2026
ウイルスを防ぐことは、脳の健康につながるのでしょうか
帯状疱疹は、実は子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが再活性化したものです。
水痘ウイルスは子どもの頃の感染後、体の神経系のあちこちに潜伏します。
そのため、感覚の情報を脳に伝える脊髄神経節や脳神経節にも潜むことがあります。
ワクチンがこうした再活性化や炎症の負担を減らし、脳の健康に役立った可能性があります。
長く続く感染や炎症を減らすことが、結局は健康を守る道なのです。
接種を迷っているなら、本来の目的から確認しましょう
認知症予防の効果が確定するまで、帯状疱疹の予防を先延ばしにする必要はありません。
ワクチンは帯状疱疹を予防し、
さらに、帯状疱疹後神経痛という合併症の
発症リスク全体を下げることもできます。こうした予防効果は、すでに確認されています。
年齢、免疫状態、過去の接種歴を確認し、自分が接種対象であれば、早めに受けることをお勧めします。
接種対象となる人にとっては、帯状疱疹の予防そのものが接種を考える十分な理由になります。認知症リスクを下げる可能性は、さらに期待できる利点です。
実は私も、軍隊にいた頃、ストレスで脳神経に帯状疱疹を発症したことがあります。今は完全に治っていますが、後遺症が残る可能性もある危険な部位でした。
その後、予防接種を受けようとは考えていませんでしたが、この論文を読んで考えが変わりました。すぐに受けに行こうと思っています(笑)。
私は、抗老化は新しい薬を探すことだけではないと思います。
すでに予防できる病気を減らすこと。それも、長く健康に生きるための大切な治療です。
参考資料
1. Eyting M, et al. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia. Nature. 2025;641:438–446. 原文
2. Rayens E, et al. Recombinant zoster vaccine is associated with a reduced risk of dementia. Nature Communications. 2026;17:2056. 原文
3. 米国CDC。帯状疱疹ワクチンの予防効果と接種案内。韓国での接種は、韓国の承認事項に基づいて判断します。資料
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